料理人(マリモ)

  • 無題(拍手SS)

     時々、胸の中が焼けついてそれからぽっかり穴が開いちまったような・・・そんな気分になっちまう光景を見ることがある。レストランは客商売。見かけたものを見ない振りして笑顔を作らなきゃいけねェこともある。 わかってる。 料理の腕だけじゃやっていけ…

  • 願い事

    「・・・痒いとこ、ないか?」「アア、イイキブンダ」「そりゃそうだろうよ。このサンジ様のコックの手で丁寧に洗ってやってるんだからよ」 ゾロを洗うのはだいぶ慣れたとは言え、やっぱり緊張はする。生き物だし。まあ、普通のマリモだって生き物なんだが、…

  • 淡雪

     クリスマス・イブ。 思えばこの日はレストランが繁盛する大忙しの日だ。だから目が覚めたとき、俺は思い切り身体を伸ばしてから弾みをつけて飛び起きた。でも、冷えた床に素足が触れたその感触と一緒に思い出しちまった。恋人たちのクリスマス。うらやまし…

  • 対決

     この物語はことが治まってからとある野郎から聞いた事情を繋ぎ合わせて再構成したある日の物語だ。この野郎ってのが言葉足らずの口下手野郎で何とか聞き出 してやろうとする俺の気持ちを少しもわからないクソ野郎だったから、もしかしたら聞き間違いとか勘…

  • 響声

     11月11日の朝。 目を覚ました途端に日付を意識するってのは1年にそう何度もないことだから、何となく煙草が欲しくなって手を伸ばした。基本、ベッドで煙草は吸わない。だから、ゆっくり上半身だけ起こした。寝タバコだけはせめて避けよう。せめてもの…

  • 夏眠

     狭いベランダに無理矢理折りたたみチェアーを出した。 物干しに洗濯したてのシーツを掛けて端をベランダの手すりと結び、即席の日除けにしてみた。 朝から冷蔵庫でキンキンに冷やしておいたココアを氷たっぷりのグラスに注ぎブランデーを数滴垂らす。 こ…

  • 訪問者

     同じコックと言ってもやっぱりそれぞれに個性があるもんで、相性っていうやつもある。俺は今はようやく下ごしらえっぽい仕事担当のコックになれたところ。 言ってみれば見習いの一つ上って位置だ。 この間のちょっといやなアレで俺が腹を蹴っちまったコッ…

  • 爆発

     昨日下げたばかりのカーテンを通して窓から差し込む朝日。目を開けて視界に入ってきた部屋の中はなかなかいい感じに見えた。やっぱりカーテンは少し光を通すやつがいい。完全遮光とかいって朝になっても全然わからないタイプはどうも好きになれねェ。テーブ…

  • 呼称

    「生きてるか~?クソマリモ」 用事が全部終わって部屋に戻ったのは空が夕焼け色に染まりはじめた頃だった。 家具屋を覗いたらどう見ても素材的に俺の部屋にはあわねェカーテンがすげェ値段で売られてた。馬鹿馬鹿しくなって街はずれで見つけたホームセンタ…

  • 珈琲

     前に住んでいた部屋は朝日が顔の真上に差し込む窓だった。夏なんか髪と地肌が焦げそうな気がして目を覚ます。自然と身体が180度回転して逆さまになっていることも多かった。避けきれねェ無駄なあがきだ。だから、新しい部屋での最初の目覚めはなんとも頼…

  • 覚醒

     気配を感じはじめたのは引っ越した部屋の最初の夜だった。コポコポとかプクプクとか聞こえる小さな音。勿論、振り向いて見ても誰もいない。いてたまるか。俺はまだこの町の誰とも知り合っちゃいねェ。この部屋を契約した不動産屋も隣町の会社だしここはこの…